自分勝手なさよなら
仕事を定時で切り上げ、そそくさと会社を出た。

内田くんからは少しして返信があった。
『ごはんでも行きます?』
シンプルすぎるその返信に、私は『うん』と答えていた。

待ち合わせの場所は神楽坂だった。
出やすくて、お互いに帰りやすい場所。
内田くんとの初めての二人飲みは、こうしてあっけなく、そして簡単に達成された。

地下鉄の改札を出ると、彼はもうそこにいた。
少し緊張した面持ちで。
「実は、予約したんです。居酒屋ですけど。…しない方が良かったですか?」

少しじゃなかった。
内田くんはわかりやすいくらいに緊張していた。
意外だな、演技じゃないよね?そう思いつつ、私も緊張を隠しきれなかった。

「ううん、ありがとう…ってゆうか急にごめんね!
大丈夫だった?」
あまり顔を見ずに歩きだした。
「むしろ…大丈夫ですよ」

内田くんが予約してくれたというお店は和風の落ち着いた居酒屋さんだった。
奥のL字形の半個室に通され、内田くんと向き合う。

これ現実なのかな。
正直、こうして二人で向き合っただけで、充分な気がした。
私には手の届かないような若くて眩しいこの人と、1度だけでもこうして飲めたなんて、私の人生には充分すぎるな、と思った。
いや、充分すぎると思わなきゃ。
当たり前すぎるほどに、私は既婚者なんだから。

同時に、もうこの時点で仕事のミスでモヤモヤしていた気持ちは正直飛んでしまっていた。

「ビールでいいですか?あと…村松さん何が好きですか?」
「うん!ここ何がおすすめなんだろ?鶏料理っぽいね。適当に頼んでおこうか。」
私たちは、とりあえずのビールに、サラダ、だし巻き卵と、焼き鳥を注文した。
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