自分勝手なさよなら
「頼むよぉ~!村ちゃん!いや、村さま!亜希さま!アイス買ってあげるから!」
課長とは思えない軽口はいつものことで、こんなところが周りから好かれるポイントなんだろう。

「しょうがないなぁ、急いでやりますね!」
普通の会社では、こんなにアットホームに上司に口を利けたりはしないのだろう。

私ももう、33歳で、いろいろな会社をみてきた。
今と同じ派遣社員もあれば、正社員で入った小さな会社も。
若い頃にはシェフを目指したこともあったが、正直なところ、キツさに耐えられず挫折した。

通常の業務は9時半から18時。
残業は、そんなに多くない。
コールセンターのオペレーターは殆どが女性で、若い子から50代まで幅広い。
私のいる企画部は、男女比は半分くらいで、まだ若手と言われる社員も多くいた。

その中に一際、オペレーターの視線を集める二年目社員がいた。

内田誠治。

皆にウッチーと呼ばれる彼は、とにかく可愛い顔をしていて、謙虚で明るく、誰にでも笑顔で付き合いのいい「好青年」を絵で書いたような青年だった。

若いオペレーターから、おばさんまで虜にしてしまう笑顔。
そんなに興味はなかったのだが、1度広告チェックを依頼され、話したときに睫毛の長さに驚いた。

「ねぇねぇ亜希、内田くんって、本当に可愛いよねぇ」
隣の席の寛子がつつく。

「うーん、可愛い。子犬みたい」
素直にそう答えた。

「そういえば、今日ランチどうする?私持ってきてないんだけど」
寛子が言う。
「あ、ごめん私今日ダンナ弁当なんだ」
「出た!本当に優しいねぇ旦那さん!うちなんてお湯すら沸かせないよ~」
< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop