自分勝手なさよなら
家事ができる、どころか得意な夫、秀雄の存在はよく周りから羨ましがられる。
基本的に穏やかで、私がどんなに会社の飲み会などで遅くなっても、嫌みひとつ言われたことないのは、7つの年齢差のせいだろうか。

「ただいまー」
もちろん返事はない。
だれもいないマンションの部屋をあけ、ソファに倒れこむ。
秀雄は、マスコミ業界で働いていることもあり、仕事が立て込むとほぼ連日徹夜だ。
付き合いたての最初こそ、一人の夜が寂しいと感じたが、いまではすっかり慣れてしまった。

一人の部屋でも、無意味にテレビをつけるのは嫌いだった。
窓を開けて、秋の風を部屋へ呼び込む。こうして、外の喧騒を聞いている方がよっぽどいい。

部屋着に着替え、缶ビールを空ける。
「はぁ~疲れた…
もう仕事、やめちゃおうかなぁ。」
もちろん独り言だし、もちろん本気でもない。

私には、家事の得意な夫も、賃貸ではあるけれどそこそこのベッドタウンのマンションも、それなりの仕事も、気のおけない友人だっている。

だけど、いつも何か満たされなさを感じてしまう。

どこにいても、私は本当にここに必要なのか?

私は本当にここにいたいのか?

…そんなことをぼんやりと思ってしまう私は、本当はすごく幸せだったのかもしれない。

ふと、携帯に目をやると、秀雄からメールが届いていた。

《今夜も徹夜。》

素っ気ないメールを寂しいと思ったことはない。
無駄のないメール、無駄のない生活を好む秀雄といると私は楽だった。

《了解。がんばれ!》

私もまた、長文メールを打つタイプではなかった。
一人の夜は、あっという間にすぎていく。
何をするわけでもなく、一日はあっという間にすぎていく。
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