傷む彼女と、痛まない僕。

 吉野さんに向かって口をパクパク動かすも、なかなか声が出ない。

 当然、吉野さんに伝わらない。

 もどかしさと苛立ちで、喋る事を諦めようとした時、

 「ごめん。 もっかい言って」

 吉野さんが横髪を耳に掛け、露になった右耳を僕の口元に寄せた。

 「・・・・・・N総合病院」

 だから僕も必死で声を出す。

 「タクシーで行こう、北川くん」

 吉野さんが僕の腕を自分の肩にまわし、僕をおぶった。

 女の人におんぶされるのは、小さい頃に母親にされて以来だ。
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