横顔の君




(は、恥ずかしすぎる…!)



鏡に映った顔を見て、私は卒倒しそうになってしまった。
目は腫れあがり鼻はプチトマトが乗っかってるみたいに真っ赤だし、マスカラやアイラインが解けて流れてあちこち黒くなってるし…



文豪の生涯がこれほどドラマチックでロマンチックだなんて予想してなかった私は、感情の波が止められず、思わず涙してしまった。
しかも、女らしくしくしく泣くのならともかくも、もう止まらない程感情が揺さぶられて号泣してしまい、溢れる涙をハンカチで拭きまくったからもう顔は本当にぐしゃぐしゃで…



でも、まさかここまで酷いとは思っていなかった。
もうこの顔は修正不能だ。
私は、トイレで思い切って顔を洗い、またメイクをやり直した。
普段からそれほどメイクに時間がかかる方ではないけれど、それでもずいぶん待たせてしまったから、もしかしたら、照之さんは帰ってしまってるかもしれない。
いや、どうせならその方が良い。
メイクをし直したとはいえ、まだかなり酷い顔だから…



「あ……」

でも、照之さんは待っていてくれた。



「す、すみません。こんなに時間がかかったのに…」

「いえ、なんてことないですよ。」

そう言いながら、あの人は持っていた本をバッグの中に仕舞った。



「あまりに泣き過ぎて、顔がえらいことになってたので…」

そう言うと、照之さんは小さく肩を揺らした。



「そんなこと、気にすることないのに…
でも、本当に良い映画でしたね。
なんだか、今、無性に彼の作品が読みたい気分です。」

「こんなに感動するとは思ってませんでした。」

「ええ、確かに…
あんな波乱万丈の人生を歩んだ人だからこそ、あんな作品が書けるんでしょうね…」

照之さんは、どこか夢見るように視線を泳がせ、静かな声でそう呟いた。
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