横顔の君
「あ、すみません!」

ようやく中に入ったものの、どこもかしこも人だらけ。
通路は狭く、何度も人とぶつかった。
入場と同時にどこかに走って行く人も多い。



長机を並べ布を掛けただけの簡素なブースに、いろんな工夫を凝らして商品がディスプレイしてあった。



「皆、アマチュアとはいえ、けっこう本格的に作られてるんですね。
でも…思ったよりも高いですね。」

「自費出版だからコストがかかるんでしょうね。
仕方ないですよ。」



確かにそうだと納得した。
本を作るのにどのくらいかかるのか、私には見当もつかないけど、でも、本屋さんに流通する本よりはきっと高くかかるはず。
そんなことも照之さんはお見通しだったんだ。



「あれ?アクセサリーなんかもあるんですね。」

「あ、あそこはCDもありますよ。」

「本以外のものもけっこうあるんですね。」

私達は、少し緊張しながらあちこちのお店を見て回った。



「あ、あそこ、すごい行列ですね!」

「きっと人気のある作家さんなんでしょうね。
買ってみたいけど、あの行列じゃちょっと無理そうですね。」

「私、並びましょうか?」

「いえ、良いですよ。
並んでも買えるかどうかわかりませんし。」



中には、本職の出版業者達のいるコーナーもあった。
そういう所に、自作の本を見せて評価してもらうみたいだ。



「どんなに良いものを書いても、人の目に触れなければ、認めてもらえませんし、広まりもしませんからね。
こういう場があるっていうのは素晴らしいことですよね。
素敵な作家さんがどんどん巣立ってくれると良いですね。」



照之さんは本当に本が大好きだけど、それだけじゃなくて、作家さんのことも考えてるんだ。
そう思うと、ますます照之さんという人が好きになった。



「とにかく、せっかく来たんですから、本を買いましょう。」

「でも、どれが面白いのかわかりませんね。」

「見本を見て適当に選びましょう。
どんな本にも面白いところはありますから。」

つい、高い本だから面白くないのを買ったら損だ…なんて考えてしまった自分が恥ずかしくなった。


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