横顔の君
「見て下さい、こんな変わった薔薇がありますよ。」

「これが薔薇ですか。
変わってますね。」



普通の花屋ではなかなか見かけないような珍種もたくさんあり、少しも見飽きることはなかった。
写真を撮る人、写生をする人、広い園内を駆けまわる子供達…
皆が思い思いに薔薇園を楽しむ中、私達も気ままに園内を歩きまわった。



「隠岐さん、そろそろお弁当にしませんか?」

「その言葉を待ってました。
ずいぶん歩いたせいか、ちょうどお腹がすいてたんです。」

私達は、木陰のベンチに腰を降ろした。



「どうぞ。」

「ありがとうございます。
では、遠慮なく…」

照之さんがお弁当を受け取り、その蓋を開けた。



「わぁ……すごい。」

照之さんは、しばらく私の作ったお弁当をみつめてた。



「恥ずかしいから、早く食べて下さい。」

「そんな…もったいないです。
しばらくみつめさせて下さい。」

恥ずかしいから私は先に口を付けた。



「吉村さん、お料理がうまいんですね。」

「そんなことないですよ。
いつもたいしたものは作りません。
誰でも作れる、煮たり焼いたりするようなものだけです。」

「いや~…彩りも綺麗だし、切り方もお上手だし、本当においしそうだ。」

そう言うと、ようやく照之さんはお弁当に箸をつけてくれた。



「あ、おいしい!」

照之さんはおかずを頬張りながら、例の無邪気な笑顔を見せてくれた。



「……本当ですか?
無理してませんか?」

「無理なんてしてません。
本当においしいです。それに……」

何かを言いかけて、照之さんの言葉はそこで途絶えた。



「隠岐さん?」

「あ、すみません。
手作りの料理って、本当にひさしぶりなんですよ。
だから、嬉しくって……」

「え…?」

「僕は幼い頃に母を亡くしましてね。
僕が小さい頃は家政婦さんがいたんですが、中学生になった頃にはいなくなりまして…
その後は、スーパーのお総菜で暮らしてたんですよ。
付き合った人の中にも料理を作ってくれる人なんていなかったし。」

「そ、そうなんですか…」

「やっぱり良いですね、手作りって温かくって。
しかもとってもおいしいし。」

嬉しかった。
私の方こそ、そんなことを言われて、涙が出る程、嬉しかった。
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