横顔の君
それにプライベートなことを聞いたのも、初めてだ。



「それじゃあ、今はお父様とお二人で…?」

「いえ…父は三年前に他界したので一人です。」

「あ、ご、ごめんなさい。」

「構いませんよ、気にしないで下さい。
僕も最近になってようやく元気が出て来たっていうのか…
こんな僕でも、一時期は店を休んでたこともあるんですよ。
なんだか心の支えがなくなって、何をする気も起きなくてね…
あの時は本さえ読みませんでした。
あ…そういえば、吉村さんは最近あのあたりに越して来られたんですか?」

「あ、いえ…そうじゃないんです。
昔からあそこが地元なんですが、大学の時にちょっと離れてそのまま働いてたんです。
その間に父が亡くなり、母と妹がこっちにいたんですが、妹が最近結婚して家を出たので、母をひとりにしておくのもどうかってことで戻って来たんです。」

「そうだったんですか…」

プライベートな話題って、なかなか話しにくいものだけど、ほんの小さなきっかけさえあれば、それは堰を切ったように出て来てしまうもの。



「私…子供の頃は、駅の反対側…つまりお店のすぐ近くに住んでいて、それでお店にもよく通ってたんですよ。
あの時、レジにいらっしゃったのが多分お父様じゃないかと思います。」

「そうですね。
親父は身体を壊すまで、ずっとあそこに座ってましたから。」

「やっぱりそうだったんですね。
それじゃあ、隠岐さんがあのお店を継がれたのは最近のことなんですか?」

「いえ、以前からいろいろと影で手伝ってはいたんですが、レジのあの場所だけはなかなか座らせてもらえなかったんですよ。
子供の頃なんて、店に行くだけでも叱られました。
店に入って良いのは、店が閉まってからだけで、その時に持って来た本を部屋で読んでたんです。
とにかくあの店は親父だけの城だったんですよね。」

「お父様も本がお好きだったんですね?」

「ええ…本好きは先祖からの遺伝みたいですけどね。」

お弁当を食べるのも忘れて、私は照之さんの話に聞き入った。
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