音ちゃんにお任せ
「一ノ瀬くん・・・。あの、こっちに来ていいんですか?」
「なにが」
「飯島さん、一ノ瀬くんと話したいんじゃないかと・・・」
小声でそう尋ねた。
だって、さっきから飯島さんの鋭い視線がこちらに向けられているんです。
一ノ瀬くんは気づかないんでしょうか。
「別に、俺は話したくない」
「・・・そうですか」
一ノ瀬くんは、正直者というか、本当にはっきりした人です。
お父様が言っていた通りです。
「あの、お父様とお会いしました」
「ああ。聞いた。あの人の事だから余計なこと言ったんだろ」
「余計なことなんて・・・。ですが、一ノ瀬くんの事を知りたがっていましたよ。お話して差し上げたらどうですか?」
「・・・話すって、なに話すんだよ」
「なんでもいいんです。日々あった事とか、思った事とか。小さなことでも。きっと、嬉しいと思います」
遠く離れているからこそ。
本当は、お父様も寂しいんだと思う。
本当は、側にいて。
その目で成長を見守りたいって思っていると思うんです。