音ちゃんにお任せ



「一ノ瀬くん・・・。あの、こっちに来ていいんですか?」

「なにが」

「飯島さん、一ノ瀬くんと話したいんじゃないかと・・・」




小声でそう尋ねた。
だって、さっきから飯島さんの鋭い視線がこちらに向けられているんです。
一ノ瀬くんは気づかないんでしょうか。




「別に、俺は話したくない」

「・・・そうですか」




一ノ瀬くんは、正直者というか、本当にはっきりした人です。
お父様が言っていた通りです。




「あの、お父様とお会いしました」

「ああ。聞いた。あの人の事だから余計なこと言ったんだろ」

「余計なことなんて・・・。ですが、一ノ瀬くんの事を知りたがっていましたよ。お話して差し上げたらどうですか?」

「・・・話すって、なに話すんだよ」

「なんでもいいんです。日々あった事とか、思った事とか。小さなことでも。きっと、嬉しいと思います」




遠く離れているからこそ。
本当は、お父様も寂しいんだと思う。

本当は、側にいて。
その目で成長を見守りたいって思っていると思うんです。






< 243 / 290 >

この作品をシェア

pagetop