契約結婚の終わらせかた



「あの女は……何一つ親らしいことをしなかった! 生みっぱなしで全てを家政婦任せ……そのせいで俺が死にかけたとしても、気にも留めず茶会だのなんだのと出かけ笑いさざめいてた! そんな女なんだよ!!」

「伊織さん……」

「俺が……どんなに苦しくて呼んでも……あの女は……一度たりと応えはしなかったんだ!!」


バン! と私の手を払いのける。伊織さんはそれ以上詳しく語ろうとしなかったけど。


彼が、死にかけたという事実もショックだったけど。


それよりも……


私にとって、伊織さんの本心が剥き出しになった。そのことの方が大切で。いつの間にか、ポロリと涙が溢れてきてた。


額に手をやって俯く伊織さんを、そっと後ろから抱きしめる。ピクリと肩を揺らしたけど、拒まれることはない。


私は、伊織さんにささやいた。


「それで、いいんです。伊織さんの気持ち……どんな思いでもいいんです。それを手紙に託してください」

「……なに?」

「私は……私も、言いたいことは親にあります。でも……伝えたくても無理なんです。
だって……私は捨て子ですから。どうして捨てたのか文句を言いたくても……伝えられないんですよ」


だから、あなたはまだ幸せなんです。


私は、伊織さんに一番伝えたかったことを伝えられた。


あなたはまだ幸せなんだ……って。


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