契約結婚の終わらせかた



「…………」

「…………」


静かな食卓には沈黙が落ちてます。

だけど、伊織さんが不機嫌な顔で黙々と食べてるのに対し、私は必死に笑いをこらえてた。


「……笑うな」

「だ、だって……伊織さん……太郎と花子に……ふふっ」


ダメだ。真面目な顔をしようとするほど、彼が金魚に話しかける姿が思い浮かんで……ガマンしきれません。


「勝手に笑ってろ」


やさぐれた伊織さんは手元のサンドイッチをフォークで切ると、一口サイズのそれを頬張る。

彼が食べてるものは、アンチョビのサンドイッチ。玉ねぎと卵、レタスやトマトが入った具だくさん。そして隣にあるマグカップには、コーン粒がないコーンスープ。 デザートはプリン。


ちょっとずつなら伊織さんは缶詰めの魚や肉を口にできるようになってた。


「そういえば、沢村屋からは着物がちゃんと直せたと連絡があった」


伊織さんがボソッと話してくれて、あっ! と思い出した。


先月伊織さんとケンカした時、彼を追いかけて葵和子さんから借りた色無地をダメにしかけたんだ。


専門店では丸洗いしても難しいと言われてたけど……染め直しせずに何とかなったみたいでよかった。


「そうですか。ありがとうございます。これでちゃんとお返しできます」


嬉しくて伊織さんに頭を下げた。だって、彼は自ら着物を直せる場所を捜してくれたんだ。忙しいなか、着物を持ってお店を回ってくれて。


「別に、礼を言われることはしてない」


無愛想にそう言ってた伊織さんだけど。ちょっとだけ口元が綻んだのが見えた。


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