契約結婚の終わらせかた




「ね~、碧ちゃん聞いてぇ!」


ガラス工芸品店「あくあくりすたる」のカウンターでくねくねと腰を揺らしながら、ほっぺたに手を当ててきゃっ! と頬を染めるのは……店主の美帆さんです。


「実はわたし……カレシ、できちゃいましたッ!」

「え? そうなんですか。おめでとうござ」
「それでね、聞いて! 雅司(まさし)ったらぁ、“展覧会で入選したら結婚しよう”っていきなりプロポーズしてきてさ。シチュエーションも何もあったもんじゃないけど、やっぱりわたしも30で正直焦るじゃない? お一人様も悪くないけど、やっぱ寂しいし。
それでね、それでね! 雅司ったら毎朝のみそ汁は俺が作ってやる!って……


――30分経過――

……で! 一緒のお風呂で超ラブラブできたのよ~碧ちゃんにもオススメ! 紅葉も今が見頃だしさ」


美帆さんののろけ話は延々45分に渡って続き、精も根も尽き果てる寸前で何とか終わった。


だって。砂を吐きそうなのろけですよ。あれ以上続けられたら、口から魂が抜け出すかと思いましたよ。


でも……ひとつ収穫があった。


「温泉かあ……」


寒くなってきた季節だからこそ、体の芯から暖まるのは良いかもしれない。調べればいろんな効能がありそうだし、胃腸に効果がある温泉を捜してみようかな。


その後夕食の買い物ついでに、書店に寄って温泉特集が組まれた雑誌を買った。

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