いきなりプロポーズ!?


「……出ようか」
「あ、うん」


 達哉は立ち上がった。何か達哉の気に障るようなことをしてしまっただろうか、そんなことを考えながら私も立ち上がる。他の客が座っている後ろをすり抜けるようにして扉に向かった。預けていたコートと宿泊用のバッグを戻してもらい、外に出る。ひやりとした空気が頬を刺した。その痛冷たさにフェアバンクスを思い出す。


「達哉、なんか思い出しちゃうね、この空気」
「ああ」
「なんか寒いね」


 達哉は無言だった。来るときにひとりで歩いたアプローチのレンガを踏みしめる。何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか、もう会えないのに最後ぐらい笑ってほしい。達哉は突然立ち止まった。


「達哉……え?」


 達哉は振り返ると私の肩をつかんだ。そして抱き寄せた。肩に置かれた手は背中に回り、そのままぎゅうっと抱きしめられた。


「く、苦し……達哉?」
「ダメか?」
「何が? だから息が苦し……え?、ん!」


 苦しいという訴えに反応してくれたのかと思った。少し離れた達哉は私の顔をのぞきこむと突然、キスした。顔を傾けて唇を合わせる。離れて向きを変えてもう一度達哉はキスをした。


「た……」
「しゃべんなよ」
「だって」


 背中にあてられていた達哉の大きな手は私の後頭部に回った。やや上を向かされるようにぐいと押されて思わず唇が開いた。達哉は容赦なくその隙間に熱いものをねじ入れた。熱いキス、息も苦しい。でも達哉がなぜこんなことをするのか分からなくて、でもキスに応えていたくてそのままでいた。


「達哉……」
「しゃべんなって、言ってるだろ」


 もっと欲しくて私は持っていたカバンを落として、自分の手を達哉の肩に回した。しがみついて自分の体を支える。

 カランコロン……。バーの入口の鐘の音に我に返って離れた。別の客が私たちを追い抜いて歩道に出て行った。見られてたかもしれないと思うと恥ずかしくて、キスだけでこんなにも反応してる自分も恥ずかしくて、でももっと欲しくてどうしていいか分からず、うつむいた。

 ドキドキと痛いほどに鼓動する心臓。胸は張り裂けてしまいそう。痛い。達哉……。


「ダメか?」


 その低い声に私は上を向いた。達哉は私を見下ろしていた。真っ直ぐな視線、大きな瞳。


「だ、ダメって」
「俺じゃダメか?」

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