彼に惚れてはいけません
「今から少しだけ佐々木さんのことお借りしていいですか?少し仕事の話がありまして」
こんな丁寧で好感のもてる中村さんは見たことがないかもしれない。
いつもこうしてたらなかなかイイ男なのに。
「30分くらいにしてもらえますか。気になって、胃に穴があきそうなんで」
「はははは。わかりました。30分と少し過ぎたくらいでお返しします」
「だめだよ、それじゃあ。29分で返して」
とふたりは楽しそうに笑って話をしていた。
また、惚れちゃった。
吉野さん、私にはもったいないくらいの人だね。
吉野さんは寂しそうに私を見つめた後、
「あの店で待ってるから」
と言った。
あの店、と言われて、いくつかの店が思い浮かんだ。
「どっち?」
「箱の方!」
「わかった!」
軽く手が触れて、吉野さんが、反対側へ歩き出した。