彼に惚れてはいけません

パリの風景を吉野さんの笑顔を頭に浮かべて、笑顔を取り戻す。

いつか絶対に行くんだもん。
大好きな吉野さんとパリの街を歩くんだから!!

「じゃあ、1ヶ月だけ試してみようかな。君を」

「またまたぁ~!もう、セクハラ社長ですね~」

と冗談で交わせていたのも最初のうちだけだった。
だんだんと握る手が強くなってきて、私は危険を感じ始めていた。

この社長が独身だということも、恐怖を募らせた。

失うものがないから、強引に来るかもしれない。

「次に会った時に、書くよ。それまで、君をお試しすることにする。君のそのちょっとキツイ言い方とか好きなんだよね。ほんわかした雰囲気なのに、時々強くてさ」

指を絡め始めた社長は、完全にもうそのモードに入っている。

私は、ちょっとトイレ、と言って立ち上がり、社長の熱が冷めるのを待とうと思った。

トイレから出ると、岡田社長がいた。

腰に手を回された。
酒臭い。

「社長、酔い過ぎですよぉ。もうお店出ましょ」

と腕を引っ張り、店員さんから見える場所へ移動した。

さすが社長だと思ったのは、店員さんから見られる場所に行くとシャキっとするところだ。

「ごちそうさまです。本当に美味しかったです」

とお礼を言い、のれんをくぐる。

前にはタクシーがまだ停まっていて、すぐにドアが開く。

タクシーの運転手さんはもうこのパターンに慣れているのだろう。



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