彼に惚れてはいけません
「乗って乗って。次のお店行こう」
腕を掴まれるが、振り解くことができないくらいに優しい引っ張り方だった。
「すいません。私、もう飲み過ぎて気持ち悪くて、ここで失礼します」
過去に例のないくらいの積極的セクハラだった。
ここまでストレートなのはなかったから、逆にスッキリ断れる。
「じゃあ、送るから乗って」
「いえ、電車で帰れます」
「だめだよ。そんなに酔ってて、誰かに襲われたらどうするんだ」
腕を引っ張られ、もうどうしようもなくて、頭の中がパニックになる。
私は探した。
吉野さんを。
来るって言ってくれた。
スーパーマンでもないし、魔法使いでもないんだから、居場所も知らないのに来るわけないのにね。
信じてたんだ。
来てくれるって。
何の根拠もないのに、信じていた。