彼に惚れてはいけません
信じるってすごいね。
幻想が見えるんだ。
信号の向こう側、吉野さんが立っているのが見えた。
うん、実際にそこにいるわけなんかないから、私の願望が映っているだけなんだろう。
「あ~!ここでしたか!岡田社長」
ヘラヘラと笑いながら、信号を渡ってくる吉野さん。
え?
本物?
「肉だったら俺もおごってくださいって言ったのに~」
タクシーの中に顔を突っ込み、岡田社長もびっくり顔をしていた。
「吉野君、どうしたんだ」
「いやぁ、肉だったらこの店じゃないかなって狙いを定めて来てみたんですよ。さすが岡田社長ですね。佐々木さんを送ってあげるんですか!スマート社長ですねぇ」
「いや、まぁ、この後バーでもどうかと思っていたんだけど、断られてね」
誰も気付いていないと思う。
吉野さんの左手は、私の右手の指を握っていた。