彼に惚れてはいけません
全部わかる。
吉野さんの優しさ。
私のため。
私がセクハラされていたことも見ていたはず。
だけど、そこで怒鳴り込むのは、違う。
冷静に判断して、社長を持ち上げて、機嫌を損ねないように私を守ってくれた。
私の契約もうまく行くように。
「さっきのレンタルの書類、もう書いておこうか」
岡田社長はそう言い、タクシーの中で必要事項を書いて、レンタル契約が成立した。
「ありがとうございます」
「また改めて、バーには誘うよ。今日は、タクシーで送るから帰っていいよ」
岡田社長は、会社の近くまで行くとタクシーから降りた。
昼間感じた、優しい普通の社長の顔をしていた。
「じゃ、俺達も降りる?」
私はコクンと頷いた。
「運転手さん、さっきはありがとう。次の信号の先で降ります」
運転手さんが振り返り、吉野さんと顔を見合わせた。
「吉野さん、もう少し遅かったらこの子、お持ち帰りされちゃうとこだったよ」
運転手さんはそう言って、私を見た。