彼に惚れてはいけません

タクシーを降りて、少し歩いていると、勢いのない噴水が出ている公園があった。

「ちょっと座る?」

私達はベンチに腰掛け、心地良い噴水の音に耳を傾けた。

「無事でなによりだ」

静かにそう言った吉野さんが、ゆっくりと私を抱きしめた。

「ありがとう。嬉しかったです」

吉野さんに抱きしめられたと同時に、我慢していた涙がとめどなく溢れた。

怖かった。
気持ち悪かった。

そういう目で見られていることがショックだった。

でも、その女の武器を利用した自分も嫌だった。

腰に手を回されたのも、手を握られたのも、
全部全部、嫌だった。


「ごめんな。俺のせいだ。君の仕事の力になりたかったんだけどな。足を引っ張る形になった」

「そんなことないです。紹介してもらって本当に嬉しかった。吉野さんが助けてくれたから、全部これで良かった」

あのまま吉野さんが助けてくれなかったら、どうなっていたんだろう。

タクシーの中でもっと嫌な思いをしたかもしれない。


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