彼に惚れてはいけません
「社長に、キスされたのか?」
顔を見なくても怒っているのがわかる声だった。
「されてない。キスなんてされてないよ」
「そうか。じゃあ、ただ俺とキスがしたいんだな、由衣」
そうじゃないです!って訂正しようと思って顔を上げると、あごと唇の間に吉野さんの親指が乗せられ、私の唇は無防備に半開きになった。
「今までの由衣の過去の彼氏の分も全部除菌するね」
え?え?冗談だよね?
って戸惑っている私の唇は、吉野さんの唇に覆われていた。
さっきまでの優しいキスではなく、情熱的なのにスローで、映画でよく見かけるロマンチックなキスだった。
どうしても、吉野さんの目が見たくなって、少し目を開けた。
街灯の灯りの下、目を閉じた吉野さんが見えた。
と思ったら、キスの合間に少し目を開けて、目が合う。
「垂れ目がもっと垂れ目になっちゃうな」
と吉野さんは笑い、舌を絡めた。
顔が見たくて目を開けたいのに、あまりの気持ちよさに目を閉じてしまうキス・・・・・・
フランス映画に出てくる俳優さんだ、この人は。
性欲とかそういうのを感じさせない余裕のあるキス。
でも、そこには情熱がほとばしっていて、私を求めてくれていることがわかる。
ガツガツしていなくて、大人過ぎるキスだった。