彼に惚れてはいけません
「聞きたいことがあるなら聞きなさい」
私のすべてを理解しているかのような余裕の表情で、吉野さんはコーヒーを飲む。
「その猫、好きなの?」
私は、上ずった声でそう尋ねた後、最初にそのスマホカバーを見た時のことを思い出していた。
あの朝、あの猫のカバーから小さい子供のパパであると想像して、よだれ男を起こしてあげたんだった。
ボールペンを大事に持ち帰ったのも、大事な娘さんからのプレゼントだろうと想像したからだった。
「好きってこともないけど、もらったからつけた」
核心に触れない会話にもどかしさを感じながらも、真実を知りたくないという想いが湧いてくる。
だって、誰にもらうの?
「女にもらったわけじゃないよ。男の子にもらった」
それを聞いてホッとしたのは一瞬で、すぐに不安に襲われた。
「男の子?」
「ああ、由衣も会ったことあったな。弥生って事務員。あの子の息子。時々会社に一緒に来ることがあって俺のこと好きみたい」
忘れもしない、弥生さん。
何かあるって直感で感じていた。
彼女は、吉野さんのことを好きなのではないだろうかと、認めたくないけど薄々感じていた。
でも、結婚してたんだね。
自分の深読みだったんだとわかり、弥生さんが私の頭の中から消える準備ができた。