御曹司さまの言いなりなんてっ!

 部長は立ち上がり、しっかりと弟に向き合う。

 その顔付きにも態度にも、兄としての確かな矜持が満ちあふれていた。


「遠山は、有意義な意見を述べてくれた。その意見に対してお前の口から出た言葉は、女性の子宮とスーツの価格だけか?」

「ぼ、僕は彼女に、会社の顔としての責任の大きさを指摘してやったんだ!」

「この場で議論すべきは、プロジェクトを成功に導く方法だけだ。遠山のスーツの品質が、それに大きく係わってくるとは思えない」


 今までどれほど自分が理不尽な扱いを受けようが、部長はじっと耐え忍んできた。

 なのにその部長が人が変わったように、専務に対して強い態度に出ている。

 私のために。

 私という部下が虐げられた途端、断固として許すまじと戦ってくれている。


 ……あの時と同じだ。

 あのパーティーで私達が社長夫人に攻撃された時も、部長は一歩も引かずに渡り合ってくれた。

 今も部長の背中はあの時と変わりなく、とても堂々として大きくて立派で、その背中を見つめる私の胸は、やっぱりあの時と同じように熱くなった。

 
「直一郎、お前の発言は彼女への侮蔑以外の何物でもない。遠山成実を侮辱することは、この俺が絶対に許さない」


 そう言い放つ部長の美しい顔立ちが、深い怒りのせいでより一層凛々しさを増していた。
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