御曹司さまの言いなりなんてっ!

 思わずドキッとして頬を赤らめる私を見て、満足そうに部長が笑う。

 まんまと彼の期待通りの反応をしてしまった自分が悔しくて、ついキッと睨みつけてしまった。

 そんな私達を見る牧村さんも、なんだか嬉しそうに笑っている。


「それでは私は、ファイルを戻してきます」

「よろしく頼む。資料作成ありがとう。よく出来ているよ」


 牧村さんが部屋から出て行った後で、部長は席についてパソコンを立ち上げながらまだニヤついていた。

 そしてチラチラ視線を流して私の様子を伺っては、上機嫌でほくそ笑んでいる。

 男の意味深なニヤけ顔なんて、いつもだったら鳥肌が立つほど嫌なのに。

 でも部長の視線はやけに艶っぽくて、しかもすごくカッコよくて……。

 ああ、もう! 本当に腹が立つ男ね!

 私はわざと不機嫌な表情を部長に見せつけながらも、その反面また痛みを伴う胸の疼きを自覚していた。

 そんな私の心の内を知ってか知らずか、部長がまた私をからかう。


「おい、ずいぶん不服そうな顔してるじゃないか。ひょっとして会長も専務も抜きで、俺とふたりきりのお泊り旅行が良かったのか?」

「な、なに言って……!? うわ!」


 動揺した私は、手に持っていた書類を全部バサバサと床に落としてしまった。

 真っ赤になってアタフタ慌てる私を見ながら、部長は声を上げて楽しそうに笑っている。

 それはセクハラ発言ですよ! って怒りたいんだけど、その少年みたいな笑顔が輝くばかりに魅力的で。

 悔しいことに、彼の笑顔が私に向けられていることが嬉しくて。

 ますますトキめく自分の本心に抵抗しきれず、ついに私の仏頂面も陥落。

 部長につられて、ヘラァッと笑ってしまった。
 
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