御曹司さまの言いなりなんてっ!
玄関先の広めの空間は木目の流れが美しいフローリング床で、大きなガラス戸の向こうに中庭が見える。
水を使用しない枯山水の白石が敷き詰められた庭は、築山の松の緑や、庭石や、石灯籠が美しく配置されていて情緒深い。
私と部長は中庭を眺められる絶好のポジションの応接セットの上で、頂き物を広げた。
「わあ、おいしそう」
野菜の天ぷら。山菜の煮物。お漬物。焼き魚。お手製らしきお団子も入ってる。
たぶん全部、地場のものを使った郷土料理なんだろう。
「この魚はマスだな。三ツ杉湖でとれる魚だよ」
「いかにも、地元って感じですね。あ、おにぎりと割り箸も入ってる」
「ペットボトルのお茶まで入ってるな。至れり尽くせりだ」
取り皿がないので、無礼講でタッパーに直箸した。
額を寄せ合って、お惣菜を突き合って、舌鼓を打って、そんな些細な行為がとても楽しい。
私は異性と向き合って食事をするのって、結構羞恥心を感じちゃうタイプなんだけど、美味しそうにご飯を食べてる部長の姿を見るのは、なんていうかすごく嬉しかった。
私が知っている部長は、いつもカッチリとスーツを着込んで、無機質なオフィスの中で生真面目な顔で仕事をしている。
もちろんその姿は誰もが認めるカッコ良さで、とても素敵だ。
でもイケメンが割り箸持って、お漬物パリパリ噛んで、「お、美味いな」なんて感心してる姿は、すごく人間味に溢れてる。
こんな彼、私しか知らないかも。