御曹司さまの言いなりなんてっ!
その後はなにを聞いても要領を得ず、とにかく来い、の一点張り。
町にある料亭の名前を告げて、専務は電話を切ってしまった。
もう、ほんとに用の足りない男ね!
ブツブツ文句を呟く私の様子から、何かを感じ取ったらしい相馬さんが話しかけてきた。
「なんだ? 一之瀬さんからの電話か?」
「一之瀬は一之瀬ですけど、専務の方です」
「専務? ああ、あの似てねえ弟か。あんたさっきからずっと怖ぇ顔してっけど、そいつ嫌なやつなのか?」
「嫌なヤツだなんて、そんな。ただちょっと礼儀知らずで、かなり世間知らずで、すごく常識知らずで……」
「つまり嫌なやつなんだべ?」
「まあそうなんですけど」
「そんな男が、あんたさ何の用なんだ?」
「それが分からないんです。なんでも会長が私に、部長に内緒で話しがあるとかで」
「…………」
相馬さんと小林さんと私の三人、揃って首を傾げながら顔を見合わせた。
要領を得ない話に不安は覚えるけれど、しかたない。専務はどうでもいいとして、会長に呼ばれたなら行くしかないわ。
指定された料亭には相馬さんがトラックで送ってくれることになった。
途中で仕事を抜け出す非礼を婦人会の皆さんにお詫びしてから、私はトラックに乗り込む。
そして子供たちの明るい歓声に賑わう林檎園を後にした。