御曹司さまの言いなりなんてっ!
車を走らせているうちに、車の窓から見える風景が徐々に変わっていく。
土がむき出しの田舎道は走りやすく舗装された道路になり、風が吹く音よりも車の行き交う音が聞こえ始め、自然の緑色よりも人工的な色彩の方が多くなっていく。
そうして三十分も過ぎた頃、ようやく目的地の料亭前に到着した。
私は相馬さんにお礼を言って車から降り、走り去るトラックを見送ってから店の玄関に向かって歩き出した。
少し手狭な玄関ながらも、飛び石の敷石が風情良く敷き詰められて情緒深い空間を演出している。
格子戸に手をかけて一瞬、部長に連絡しようかと思ったけれどすぐに思い直した。
こんなことで、急なトラブルの対処に大わらわな部長の手を煩わせるまでもない。
またあの専務の嫌味な言動で部長のストレスを増やすことはないわ。その点は私がしっかり彼をサポートしてあげなきゃ。
扉を開けて中に入り、名前を告げると仲居さんが奥へ案内してくれた。
わりと新しい店舗のようで、照明や扉には和風ながらも現代的な趣向が取り入れられていて、なかなかお洒落だ。
「こちらでございます」
仲居さんの手で開けられた襖の奥の和室の席に、会長と専務が座っている。
会長が私に向かっていつも通りの笑顔を見せてくれた。
「成実ちゃん、急に呼び出してすまなかったねえ。さ、おいでおいで」
手招きされた私が一礼して中に入ると、襖はゆっくりと閉ざされた。