御曹司さまの言いなりなんてっ!

「先に始めさせてもらっているよ。成実ちゃん、お腹空いてるだろう? 成実ちゃんの料理もすぐに来るからね」


 黒い漆塗りの座卓の上には、冷し物やら煮物やら焼き物やら、とても美味しそうなお品が並んでいる。

 私は会長の隣に用意されていた座布団に座り、料理を引き立たせる器の美しさや、床の間の一輪の生花や掛け軸を眺めていた。


「それではお祖父様、僕は席を外しますから、どうぞごゆっくり」


 すると専務がいきなり立ち上がって、襖に向かってスタスタと歩き出す。

 専務? 食事の途中でどこへ行くの?


「直一郎、すまないね」

「いいえ。お気になさらないで下さい」


 そう言って専務は襖を開け、部屋から出て行ってしまった。

 どうやら彼が退席するのはふたりの間で決まっていたことらしく、会長は戸惑う様子もない。


「さあ成実ちゃん、まずは一献」

「あ、す、すみません」


 専務が出て行った襖をキョトンと眺めている私の手に盃を握らせ、会長は徳利を傾けた。

 トクトクと風流な音をたてて、窄んだ口から透き通った酒が注がれる。

 実はあんまりアルコール類は得意じゃないんだけど、会長が勧めてくれたものを断れずに、私はグッと飲み干した。

 日本酒独特のキリッとした風味が口に広がり、ツゥーンと鼻と脳天に抜ける。

 たった一杯のお酒だけで喉から上の全部が、酒の芳香に包まれたようにフワッとしてしまった。

 うわあ、やっぱり日本酒って、効く。

 微妙に顔をしかめる私の様子を、会長が横でじっと見ていた。
   
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