御曹司さまの言いなりなんてっ!
何か引っ掛かりを感じる単語が耳を通った気がして、酔った頭が少し覚醒する。
でも自分が何に対して疑問を感じているのか、まだハッキリとは認識できない。
いまひとつピントの定まらない目で、私は会長の真っ白な頭をノンキに眺めていた。
「どうか私の、秘めた思いを成就させてくれ」
私への真剣な、秘めた思い? 会長が私の面倒をみる?
ん? それは、つまり……。
つまり……? え?
つまり、愛人!? 会長、私に愛人になれって言ってる!?
薄ボケていた頭が、冷たい水をぶっ掛けられたようにクリアになった。
私はパカッと口を開いて、会長の皺深い顔をマジマジと凝視する。
だって、信じられない。会長がそんなことを要求するような低俗な人物だなんてとても思えない。
これって私の聞き間違い? きっと何かのカン違いよね?
ところがそんな私の信頼を、会長はまるでちゃぶ台返しのように、いとも簡単にポーンとひっくり返してしまった。
「成実ちゃん、マンション買ってあげようか? 高価な服や宝石は欲しくないかい? 私の財力ならね、可愛い成実ちゃんのために何でもしてあげられるんだよ?」
「そんなの、いりません!」
会長に握られている手にゾワゾワと虫唾が走り、慌てて引っ込めようとしたけれど、会長はますます力強く私の手をがっちり握って固定する。
「手を離して下さい!」
「離さない! 私の思いを受け止めてくれ!」
80過ぎの老人とはとても思えない、ものすごい力で会長は私の手を引っ張る。
まるで綱引きみたいに手を引っ張り合いながら、私の全身は冷や汗がダラダラだった。