御曹司さまの言いなりなんてっ!

 専務がそそくさと席を立った意味が、今さらになって理解できる。

 これは専務も承知のうえなんだわ。なら私が助けを求めて大声を上げても、きっと誰も来ない手はずになっているんだろう。

 品の良い和室がまるで時代劇の遊郭みたいに見えて、私は逃げ場のない恐怖に総毛立った。


 それでもなんとか起死回生の手段を思い付こうと必死に我が身を奮い立たせる。

 今朝、部長が私に見せてくれた幸せそうな笑顔を思い浮かべて、腹の底にグッと力を込めた。

 冗談じゃないわ。こんなの断固、願い下げよ。部長が知ったらどんなに傷付くか。

 たったひとりの自分の味方だった祖父が、私に対してこんなこと……。

 あの笑顔を、私が守らなきゃ!

 酔いが回っているせいで思い通りにならない身を強引によじり、私は会長から逃れようと試みた。

 
「目を覚まして下さい! 会長!」

「成実ちゃん、待ってくれ!」

「そっちこそ、待ってください! どうか頭を冷やしてください!」

「行かないでくれ! どうか私を拒絶しないでくれ!」


 逃げようと必死な私の体を、同じように必死な会長の両腕がギュッと抱きしめた。

 老いたとはいえ明らかな男の腕と胸に押さえ付けられた私は、心の底から恐怖を感じて顔から血の気が引く。

 畳に這いつくばるようにして、なりふり構わず喉の奥から金切り声を張り上げた。

「きゃああ! お願い誰か助けてー!」


 そのとき私の悲鳴に被さるように、廊下からドカドカとひどく慌ただしい足音が近づいてきた。


「成実! 成実どこだ!?」


 ……部長の声!?
 
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