御曹司さまの言いなりなんてっ!

「もう今後一切、遠山へは近づかないで下さい。さあ帰ろう成実」

「ま、待ってくれ成実ちゃん!」

「もう私のことを、成実ちゃんなんて呼ばないでください!」


 部長の胸に顔をうずめながら、私は叫んだ。

 いけ好かないセレブ連中の中で、会長だけは信頼できる良い人だって信じた私がバカだった。

 きっとこの人はこんな風に、今までずっと他人を騙して裏切り続けて、そうやって会社を大きくしたんだわ。

 そうでもしなきゃ、一代であれほどの大企業なんて育てられるはずがないもの。

 もう一之瀬一族は誰も信じられない。信用できるのは部長だけだわ。


「私は成実ちゃんに贖罪しなければならないんだよ!」

「結構です! そんなもの必要ありません!」

「そうはいかない! そうしなければ、私の70年は終わらない!」

「……え?」


 溜まった何かをギリギリとしぼり出すような会長の声に、私は思わず振り向いた。

 70年? ……どういう意味?

 私を自分の愛人にしようとしたことを謝罪したいんじゃないの?

 会長は畳の上にへたり込み、ガックリとうな垂れてしまっている。

 真っ白な髪の毛がほつれて乱れ、肩を落としたその様子は、いつも生き生きとして精力的な会長とはまるで別人のようだった。

 力無く畳を見おろしたまま、会長は言葉を続ける。


「どうか私の告白を聞いてくれ。私は……」

「やめてくださいお祖父様! 成実には何も言わない約束でしょう!」


 ……え??

 私は今度は、切羽詰まった声で会長の言葉を遮ろうとする部長の顔を見上げた。 
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