御曹司さまの言いなりなんてっ!

 もし私が事実を話して、断ったら?

 きっと誰かに大口の融資は取られてしまうだろう。

 必死になってここまでこぎ着けたのに、その努力はみんな水の泡だ。全部横から掠め取られてしまう。

 ……負けだ。

 負けてしまう。

 負けるのは嫌だ。

 負けることは、全てを失うことだ。


 全てを焼き尽くす業火。

 写真すら残らなかった父さん、兄さん。

 変わり果てた姿で再会した、母さん、姉さん。

 ほんの一瞬の隙に私から離されてしまった、あの幼い、小さな手の感触。


 嫌だ。

 嫌だ。負けたくない。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 負けるのはもう、嫌なんだ。だから私は……


『少し、考えさせてください』


 そう、答えた。

 その言葉が相手に大きな期待を持たせる返答であるという事実から、目を背けながら。

 そして家に戻った私はタキに向かって頭を下げた。

 どうかしばらくの間だけ、この家から出て行ってくれまいか? と。
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