御曹司さまの言いなりなんてっ!

 いま融資を受けるためには、絶対にあちらのお嬢さんのご機嫌を損ねるわけにはいかない。

 あの激しい癇癪もちの性格だ。万が一にもお前の存在が知れたら、どうなることか。

 なに、家を空ける期間はしばらくの間だけでいいんだ。

 ほんの少しの間、私がお嬢さんを宥めている間だけでいい。

 どうせお金持ちのお嬢さんの気まぐれに過ぎないんだ。麻疹のようなものだから、潮が引くように熱もすぐ冷めるだろう。


 私は、この融資に賭けているんだ。

 どうか私を男にしてくれ。この店をどの店にも負けないほど立派にして亡き先代に、お前の父に、恩返しがしたいんだ。

 心配するな。融資の話が決まればすぐにお前を迎えに行くと約束する。

 私の心に他意は無いとも。無いからこそ、こうして包み隠さず全てを正直に打ち明けている。


 だからどうか夫である私を信じてくれないか? ここ一番、妻として夫を支えてくれないか?

 信じて、私を待っていてくれないか?

 どうかどうかこの通り、頭を下げて頼むから。

 だから……。


 だから、米つきバッタのように頭を下げる私を前にして、タキは言われた通り母親を連れて村から離れ、身を隠すしかなかった。

 私はその後、無事に融資を受けて。

 そして。


 程なく、銀行家の娘と正式に結婚した。


 ……そんな……。

 そんな、つもりは、本当に。


 ただどうしても、断れない状況になってしまって。 
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