御曹司さまの言いなりなんてっ!
「そしてあの誕生パーティーの日、私は成実ちゃんと出会ったんだよ」
畳にへたり込んだまま、会長は私を見上げた。
目に涙を浮かべ、喜びとも安堵とも苦悩とも呼べないような、ひどく複雑な表情を浮かべながら。
「本当に驚いたよ。成実ちゃんは若い頃のタキそっくりなんだ。ほら、ほら見てごらん。これがタキだよ」
会長は、もどかし気に胸ポケットから一枚の写真を取り出し、献上するように私に向かって両手で差し出した。
私は、色褪せてセピアに染まったそれを受け取る。
裏面に筆らしきもので、『仮祝言にて 秀雄 タキ』と書かれているモノクロ写真には、若い男性と若い女性が写っていた。
背筋をシャンと伸ばして立つ男性は、驚くほど部長に良く似た眉目秀麗な顔立ちをしている。
その隣で椅子に腰かけ、穏やかに微笑む女性は……。
素直に伸びたサラサラの黒髪。
清楚で控え目なナチュラルメイク。
格子柄のサックドレス。
これは、この恰好はあの時の私の……。
「お祖父様にとってキミのお祖母様は、どうあっても逆らえないほど大きな存在なんだよ」
写真を眺めつづける私の耳に、専務の声が聞こえる。
「そんなお祖父様の目の前に、その写真とそっくりの恰好をしたキミが突然、現れたんだ。もちろんそれが偶然なわけないよな? 兄さん?」
そして私は、ゆっくりと写真から視線を動かした。
ずっと無言のまま、顔を強張らせて立ち尽くしている部長へと。