御曹司さまの言いなりなんてっ!

「俺は運命だと思ったんだ! 試験会場でお前を見た瞬間、これは運命だって!」

「…………」

「初めてキスしたあの夏の日、俺はお前に恋したんだ! だから俺は……」

「恋ぃ!? 兄さんは本当に口が上手いね! さすがモテる男は違うなあ!」


 専務が声高に部長の言葉を遮り、ゲラゲラと嘲り笑った。

 そして、さも憎々し気な表情で唾を吐くように断言する。


「そんな大嘘はやめろよ。みっともない」

「嘘じゃない! お前は黙っていろ!」

「いいや、黙らないね。もしも兄さんの言葉が本当なんだとしたら、なんで遠山に秘密にする必要があるんだよ?」

「そ、それは、大昔の出来事をどう切り出せばいいのか悩んでいて……」

「まだそんな嘘をつくのかよ。自分の胸に手を当てて考えてみろ」

「…………」

「遠山のお祖母様は、うちのお祖父様の嘘で全てを失ったんだぞ? なのに兄さんは彼女にまで嘘を吐き続けるつもりなのか?」


 その言葉を聞いた途端、専務を睨みつけていた部長の目付きが弱々しくなる。

 頼りなく視線を彷徨わせて逡巡した後、ようやく彼は観念したようにコブシをギュッと握りしめながら言った。


「お祖父様を喜ばせようと思った気持ちの裏に、そんな打算が全く無かったと言えば嘘になる。確かに俺は……お前を利用しようとしていたんだ」


 その告白を聞き、私はそっと目を瞑った。

 あぁ……きっとそれが彼の本音だろうと思う。

 部長は本当に崖っぷちまで追い込まれていたんだから。
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