御曹司さまの言いなりなんてっ!

 あの楽園から追い出されないために、藁にも縋る気持ちだったんろう。

 そんな自分の計算高さを無意識に嫌悪したからこそ、その反動から最初のうちは私に素っ気ない態度をとったんだろう。


「アハハハ! たいしたもんだ! 全くたいしたもんだよ!」


 両手を激しく打ち鳴らして拍手喝采しながら、専務はヒステリックに笑い出した。


「いつも綺麗事を言ってイイコぶってた、これがあんたの本性だ! 自分は周りとは違うと言わんばかりの澄まし顔しやがって! どうだ思い知ったか! この、垢にまみれた俗物野郎!」

「うるさい黙れえぇぇ!」


 叫ぶが早いか、部長は握りこぶしで専務の頬を凄まじい勢いで殴り飛ばした。

 部長よりもだいぶ小柄な専務は堪らず、目を剥きながら派手に引っくり返ってしまう。

 畳の上に横倒れになり、殴られた頬に手を当ててヒィヒィ喚く弟に向かって部長は声を限りに絶叫した。


「お前、俺になんの恨みがあるんだよ! 生まれた時から俺のもの全部奪いやがったくせに! このうえ成実まで俺から取り上げるつもりなのか!?」

「……欲しいもの全部持っているのは、あんたの方じゃないか!」


 専務は形相を変えて、切れた唇から赤い血を流しながら兄に向かって絶叫を返した。


「本物の長男の地位も! 優秀な成績も! 万能な運動神経も! 見惚れるほどの見た目の良さも! ……皆が知ってる! 思ってる! ほんとは、ほんとは……」


 大企業の令息として生を受けながら、凡庸に生まれついてしまった男の目にブワリと涙が盛り上がる。


「本当はあんたの方がお父さんの後を継ぐべきだって、みんな知っているんだ!」
  
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