御曹司さまの言いなりなんてっ!

 なんてことだろう。まさか私が自宅でダラダラしていた間に、そんな大変な事態になってしまっていたなんて。

 茫然自失な私は、牧村さんの次の言葉で更に呆けてしまった。


「遠山さん、これから会長を見舞って下さいませんか?」

「……は?」

「病床の会長が、うわ言を言い続けているんです。あなたに会いたいと」

「会いたい? 私にですか? でも……」


 会ってどうするの?

 冷たいかもしれないけれど正直なところ、それが私の本音だった。

 過去を告白して罪滅ぼしをした時点で、もう会長の胸のつかえは下りたはずなんだけど。


「私は、もう会社を離れた人間ですから」


 そう言って断りながら、いったい会長はどんなつもりなんだろうかと思った。

 自分の弱った姿を見れば、私が情にほだされるとでも思っているんだろうか。

 ……ほら、こんな意地の悪いことを病人に対して考えてる。だからやっぱり会わない方がいいんだ。

 危険な状態のお年寄りに向かって、万が一にも暴言なんか吐きたくないし。

 会わない方がお互いの為なのよ。その方が後悔しないで済むわ。


「もう私はこだわっていないからと、会長に伝えて下さ……」

「嘘ばっかり」

「……え?」

「成実、まだこだわってるよね? ものすごく」
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