御曹司さまの言いなりなんてっ!
楽園のような一流企業に受かって喜んでいたら、それには裏があった。
すごく親切で優しくしてくれた会長とは、遠い過去にヒドい因縁があった。
誰もが見惚れるイケメン部長と運命的な再会をして恋仲になったら、こんな事態に陥った。
一歩前に踏み出した先、人生どうなるか予測もつかないのは痛いほど身に沁みているけど。
「でも、行ってみようと思います」
作り笑顔ではない笑顔で、私はそう言った。
瑞穂の強張った表情も緩んで、ふわりと笑顔になる。
「やっといつもの成実らしい顔に戻ってきたね。さっきまでヒドい顔してたわよ?」
「ヒドい顔ってどんな顔よ?」
「国会答弁してる議員そっくりな顔。んもー、見てて本気でイラつくったら」
「なによそれ」
「竹を叩き壊す性格の成実に、あんな顔は似合わないわよ」
「それを言うなら『竹を割ったような性格』でしょう? 叩き壊してどうするのよ。私は破壊神じゃないってば」
「成実の場合、勢い余って破壊することが多いじゃない」
アハハと声を上げて軽口を叩きながら、私達はアパートへ向かった。
でも内心は不安を抱えているから、こんな風に冗談を言い合って気を紛らわしている。
そんな私の複雑な心境を理解してくれているだろう瑞穂は、おどけた顔して、元気に笑ってくれていた。
牧村さんは何も言わずに一歩下がって、そんな私達を見守りながらついて来てくれる。
……ありがたかった。
しみじみと、本当に、ありがたかった。
心からふたりに感謝しつつ、私は自室に戻って着替えて、一緒に会長の入院している病院へ向かった。