御曹司さまの言いなりなんてっ!
あの空襲の夜、私は雨あられのように焼夷弾が降りしきる中をひとりで逃げ惑っていた。
現実とは思えないほど、焼夷弾の光は美しかったよ。
あんな美しいものは見たことがなかった。人の命を残酷に奪い尽くす物なのに。
爆音と大火の間を怯えながら走り回って、そのうちに白々と夜が明けて、やっと地獄が終わったと思ったんだ。
でも地獄はまだ続いていたよ。
道端に焼け焦げた死体がゴロゴロ転がっているんだ。
まるで石ころみたいに、いくらでも転がっていた。ゴミみたいに。
悪臭に鼻を押さえながら母さん達を探して歩き回っていたら、軍服を着た男の人に命令されたんだ。
『そこの坊主、死体を運ぶのを手伝え』って。
……運んだよ。
火災で熱した空気も冷めない中を汗まみれになって、黒焦げの、四肢も整わない死体を、この素手で延々と。
死体から発する粘りつくような臭いが鼻を突き、溶けた脂肪がぬるりと手についた。
そこで、見つけたんだ。
重なり合った死体の山の中に、母さんと姉さんを。
ピンク色になった皮膚にね、見覚えのある服の生地が張り付いていたから分かった。
『母ちゃん、姉ちゃん』
ひょっとしてまだ生きてるんじゃないかと思って何度も呼びかけたけど、返事は返ってこなかった。
自分の母親と姉の死体を前に茫然とするばかりで、涙すら出てこない。
そのうち、呼びかけることにも疲れ果てて。
妹の姿も懸命に探したけど、どうしても見つからなくて。
どんどん自分の感覚が麻痺していくのが分かった。