御曹司さまの言いなりなんてっ!

 死体運びから解放された後に川で手を洗って、無意識に家に向かったよ。

 たぶんそこに行けば、失くしたもの全部があるような気がしたんだ。

 でも、家は無かった。

 一面の焼け野原で、まだあちこち火がくすぶっていて。

 なんにもない。本当に、嘘のように全部、無い。

 昨日までは家だったガレキの山を前に座り込んで、ヒザを抱えて、泣きもしないで、ただボーッとそうしていた。



 父ちゃん、死んだ。兄ちゃん、死んだ。

 母ちゃん、いない。姉ちゃん、いない。妹、いない。

 家、無い。なんにも、なーんも、無い。無い。無い。

 ……無い。


『どうしたの?』


 後ろから女の子の声が聞こえて振り向くと、いつの間にかそこに、おかっぱ頭の女の子が立っていた。

 真っ黒に煤けた顔と、血で薄汚れたもんぺ姿のその子は、お金持ちの商家のお嬢さんだとすぐに思い出した。


『失くした……ぜんぶ……』


 たぶん私は、死んだ魚のような目をしていたと思う。

 自分のノドからまだ声が出るのが不思議に思えた。

 声すら無くすほど、全てカラッポになってしまったと思っていたから。

 女の子はそんな私をガラス玉みたいに綺麗な目でじっと見て、そしてポケットから何かを取り出した。


『これ、あげる』


 小さな手に、赤い林檎がひとつ。

 女の子は健気にも私を慰めようと、貴重なそれを差し出してくれた。
 
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