御曹司さまの言いなりなんてっ!
パッと周囲が明るくなって、私と部長は辺りを見回した。
小林さんの息子さんが設置してくれた祭り提灯に明かりが灯り、すっかり夜色に染まった空気を朧に照らしている。
再生されて息を吹き返した古民家の前に広がる光景を見て、私は息を飲んだ。
ヨーヨー釣り。射的ゲーム。輪投げ。千本引きに、ラムネに、オモチャに駄菓子。
……どうしてだろう。こんなの別に珍しくも無い。
規模だって小さいし、大人になってからだって何度も大きな夏祭りは見てきたのに。
遠い夏の日、両親やおばあちゃんと一緒に過ごした一夜が記憶の淵から鮮やかに甦る。
目を輝かせながら、夢中で過ごした時間。
祭り囃子。お気に入りだった赤い浴衣に、大好物の綿アメ。
人いきれと、賑やかなざわめきと、おばあちゃんの笑顔と……。
私の手を包み込んで決して放さなかった、あの柔らかな温もり。
子どもだった頃の特別な時間を思い出して私の胸は熱くなり、切なくて、泣きそうになった。
「同じだ。子どもの頃と」
感極まった部長の声。
その声に重なるように、笛と太鼓の音が聞こえてきた。
複数の灯籠の明かりがユラユラと近づいて来て、祭りのクライマックスの始まりを告げている。
「部長、どうやら来ましたね」
「そうだな。忙しくなりそうだ」
私と部長は微笑み合った。
さあ、彼らの思い出の時間をつくる、光栄なお手伝いをしよう。