御曹司さまの言いなりなんてっ!

 即席の小さな夏祭り会場は、すぐに子ども達の歓声とキラキラした表情に埋め尽くされた。

 あちこちから『今年の祭りは参加者が多い』という嬉しい声が聞こえてくる。

 古民家の中では村人たちが席に座りきれないほど集まって、料理に舌鼓を打ちながら楽しそうに盛り上がっていた。


 賑やかな灯りから少し外れた薄暗い場所には、チラホラと若い男女の組み合わせが。

 高校生くらいのカップルも、甘酸っぱい表情でコッソリ話し込んでいたりして。

 なんだか横目で見ているこっちの胸まで、くすぐったくなってしまった。


 相馬さんの林檎即売会も、手伝ってくれている牧村さんのイケメン効果もあってか大好評。

 牧村さんに話しかけてくる女性たちを必死に牽制している瑞穂の姿が可笑しかった。

 楽しい時間は、そうしてあっという間に過ぎていく。


「皆さーん、お祭りもそろそろ終盤です。どうぞこちらにお集りください」


 大声を出して皆を呼び集め始めた私に、部長が質問する。


「なんだ? 何が始まるんだ?」

「打ち上げ花火です」

「花火? そりゃすごいな。ずいぶん豪勢だ」

「いえ、実はそうもいかなくて。盛大な打ち上げ花火は申請が面倒なので、間に合わなかったんです。今回は小玉中心です」


 本数も少ないから、一本も見逃さないようにしなきゃ。

 全員で湖の岸辺に集まり、向こう岸から花火が上がるのを今か今かと待ち構えていた。

 やがてシュルシュルと風を切る音が聞こえる。

 そして夜空に、目を奪われるほど美しい大輪の花が咲いた。
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