御曹司さまの言いなりなんてっ!

 誰かとの繋がりを求めながら、自分の本音は物陰に隠してばかりいた。

 人には与えないくせに、いつも確かな居場所を欲していた。

 俺は臆病者で卑怯者。おまけにひどい愚か者だ。

 かつて母親がいた場所にしがみ付くことが、自分の勝利だと思っていた。

 あの楽園にいることで、自分の存在意義が正しく証明されるんだと信じていたんだ。


「バカだよな。なに勘違いしてたんだか」


 夜空を見上げていた部長は、私へと向き直った。

 正面切って向かい合う彼の瞳は、もう私以外のなにも映していない。

 相変わらず宝石のように綺麗で、湖上に吹く風のように穏やかで優しい目をしている。


「存在意義も、証明も、勝利も、そんなの全部勘違いだった。俺は……」


 パッと頭上が明るく輝き、向かい合う彼と私を、一時の闇から救い出す。


「俺は成実が好きだ。成実と一緒に生きていきたい。成実が俺の全てだ」


 ―― ドーーン……!


 命が燃える音が鼓膜を震わし、この胸の奥まで確かに届いた。

 夜空に大輪の花が咲いた瞬間を、私も部長も見逃してしまう。

 でも、私達はちゃんと知っている。

 熱くて、強くて、切なくて美しい……泣きたくなるほど確かな、あの瞬間を。


「私も……好きです」


 涙ぐみながら私は彼に向かって答えた。


「私も、あなたが私の全てです」


 だから私はここへ来たのよ。

 迎えに来てくれるとあなたは言ったけれど、何もしないで待ち続けていたくはなかったの。

 自分の足で、自分の意思で、私の世界に飛び込みたかった。
< 241 / 254 >

この作品をシェア

pagetop