御曹司さまの言いなりなんてっ!

 小さな花火が連続して咲く音が聞こえる。

 弾けるような破裂音と歓声で賑わう中、突然部長は私の手をギュッと握った。

 かと思うと、ぐいぐい引っ張って歩き出す。


「おい牧村」

 瑞穂と一緒に花火を見上げている牧村さんの所まで私を連れて行き、真面目な顔をして彼に何事かを耳打ちする。

 牧村さんはちょっとだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに私と部長に微笑んだ。


「わかりました。ただし一生、恩に着てもらいます」

「ああ、もちろん。ありがとう」


 部長はそう言い終えるが早いか、また私の手を引っ張ってどんどん歩き出す。


「ぶ、部長? どこに行くんですか?」

「古民家だ。俺は今すぐお前とふたりきりになりたい」

「でもまだ、お祭りが終わってませんよ?」

「大丈夫だ。後のことは牧村に全部任せたから」

「そんな無責任な」

「いいんだよ。生真面目なのも時と場合による」


 部長は脇目も振らずに古民家へ向かって一直線。

 手を離してくれないもんだから、私も一緒について行くしかない。

 玄関を開けると、中にいた人達は全員花火を見るために湖へ出たようで、人っ子ひとりいなかった。

 私は部長に引っ張られながら静かな廊下をどんどん進み、有無を言わさず部屋の中へ押し込まれる。

 部長も部屋の中へ入って、ドアのカギをカチャリと閉めた。

 そして私は、思い切り部長に抱きしめられた。
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