御曹司さまの言いなりなんてっ!
部長が、会長に負けないほど嬉しそうな笑顔で私を見つめている。
ピクンと震えた私の手の甲に感じる、とても大きくて男らしい彼の手の感触。
沁み入るような温もりに皮膚が限界まで敏感になって、じりじりとヒジまで痺れてしまいそうだ。
私に向けられた笑顔の温かさに、また目を逸らすことができなくなる。
手を振り払うこともできずに、激しく鼓動を鳴らすだけ。
―― ドッ、ドッ、ドッ……
うろたえる私の心臓は、激しく鳴り続けている。
なのに部長はもう片方の手で、さり気なく茶碗を口に運んでお茶なんて飲んでる。
彼の素知らぬ顔が、テーブルクロスの下に隠されたふたりの手が、お茶の香りと共に秘密の匂いを運んでくる。
他の人に、気付かれちゃいけない……。
私は部長の方へ向けていた自分の首を、ギクシャクとロボットみたいに前方へ向けた。
そして会長が楽しそうに続ける話を、笑顔をビタッと顔に張りつけたままで聞く。
適当に相槌を打ちながらも、内容なんて右の耳から左の耳。
ああ、ちっとも聞いてないのがバレたらどうしよう。
必死に危険な綱渡りをしながら、まるでこの状況を楽しんでいるかのような部長の澄まし顔に、心底腹が立った。
この手、放して下さい部長!
せっかくのお茶とお菓子なのに、これじゃ私、飲めないし食べられないじゃないですか!
なのに、なにひとりで「玉露だな」とか言いながら飲んでるんですか!?
しかも、すっごく美味しそうにお菓子食べてるし!
セクハラで訴えてやる! と思いつつ。
その心とは裏腹に、私の手は微動だにせず、抵抗らしき抵抗もしない。
結局私は、しきりにお茶を勧めてくれる会長のご厚意を、曖昧な笑顔でごまかし続けるしかなかった……。