御曹司さまの言いなりなんてっ!
「直哉、そろそろ会場に戻った方がいいんじゃないかね?」
「はい。そうします」
「どれ、私も顔を出すとしよう。主役がいつまでも引っ込んでいては示しがつかないからね。お前たちは先に行っていなさい」
「分かりました。でもご無理はなさらないで下さい」
部長が私の手を放して立ち上がり、会長へ一礼した。
私も慌てて立ち上がって一礼して、ドアへ向かう部長の後を追う。
「それではお祖父様、会場で」
「失礼しました」
深々と腰を折って挨拶をする私に会長は、「遠山くん、またね」と笑顔で手を振ってくれている。
大企業の偉大な創始者は、なんとも意外性に満ちた人物だった。
継子イジメに加担するような、鼻持ちならない強欲じいさんかと思っていたけれど、故郷への尽力を望むような純粋な人だし。
想像以上に態度も口調も庶民的で、尊大なところがまるで見受けられない。
私はドアを閉めながら、この人、そんなに悪い人じゃないのかもしれないな、と思った。
部長と牧村さんと一緒に控え室を出て、会場へ向かうエレベーターへ乗り込む。
そしてチラッと部長へ向けて視線を投げた。
背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見ている彼の表情は堅苦しくて、さっきまで私にセクハラしていた人物とはとても思えない。
私はまだ彼の温もりや感触が生々しく残る自分の手の甲を、そっと摩った。
そして部長の真面目な目を無言で盗み見ながら、その意図を計りかねていた。