御曹司さまの言いなりなんてっ!
エレベーターから出て会場の扉を開けると、相も変らず賑やかな談笑の渦が会場中に広がっている。
主役が不在なのに、よくここまで盛り上がれるわね。
会長の誕生パーティーにかこつけた、ただの接待なんだわ。この企画は。
「直哉さん、お祖父様のご様子はどうだったかしら?」
会場へ一歩踏み込んだ途端、待ち構えていたように社長夫人が近寄って来て、笑顔で話しかけてきた。
部長も穏やかな微笑みを返しながら対応する。
「静かにお休みのご様子でした。もうしばらくしたら、またこちらにいらっしゃるそうですよ」
「そう。お祖父様とのお話は楽しかった? どんなお話をしたの?」
「取るに足らない、ただの世間話ですよ」
「あらあら、お母さんには秘密のお話なの? お母さん、寂しいわあ」
水辺を模した薄青色のしゃれ袋帯に手を添え、社長夫人が拗ねたような態度をとる。
着物も帯も、礼装からは一段格が下がった品だけど、色合いやデザインがとてもモダンでパッと目を引く。
招待客の女性達から敵愾心を受けるような、豪華な衣装は控えているんだろう。
こういう部分をしっかり計算してるし、会長との会話内容に探りを入れるのを忘れないところも抜け目がない。
本当にこの人、主婦じゃなくて外交官になればいいのに。