御曹司さまの言いなりなんてっ!
社長夫人が困惑の表情を見せながら、頬に手を当て小首を傾げるお得意のポーズを披露した。
「古参の社員さんを差し置いて、こちらのお嬢さんを抜擢したのよ? 誰にでも分かる説明をしないと、とても納得できない社員さんも多いんじゃないかしら?」
「…………」
「どうして説明できないの? まさかこちらのお嬢さんが綺麗だから、なんて理由じゃないわよね?」
「お母さん、それは……」
「あらあら、直哉さん、それはいけないわあ」
肯定も否定もしていない部長の言葉に被せるように、社長夫人は大声を出した。
そして渋い顔をして、まるで幼い子どもを諭すような態度をとる。
「お母さんは難しいことは分からないけれど、そんな理由でお仕事をしてはいけません。上に立つ者がそんなでは、部下への示しがつきませんよ」
「だから僕が言ったでしょうお母さん。兄さんには、社会人としての素養にかけているところがあると」
突然、若い男性の小馬鹿にしたような声が聞こえた。
いつの間にか、嫌味な笑顔をした専務が周囲の人垣の中に紛れ込んでいる。
専務は母親の隣に歩み寄り、肩で大きく溜め息を吐いた。
「困るなあ、兄さん。社長の息子だからって勝手なことをされたら、社内の規律と統制が乱れてしまうだろ?」
「直哉さん、直一郎さんの言う通りよ。会社も仕事も、あなたの好き勝手にしていいものじゃありません」
「自分の血筋を悪用するような真似は、やめてくれよ。そんな当たり前のこと、わざわざ言わなきゃ分からないのかなあ?」