御曹司さまの言いなりなんてっ!
目の前の大きな背中を見つめる私の胸が、熱くなった。
社長夫人と専務は、呆気にとられたような顔をしている。
いつもと違う部長の様子に戸惑っているようで、専務は助けを求めるように母親を見たけれど、さすが社長夫人は踏んだ場数が違う。
一瞬で平常心を取り戻し、いつも通りの優しげな微笑みの仮面を被った。
「でもねえ、遠山さんの立場というのも考えてあげないとねえ」
キュッと口角を上げ、ふくよかな頬の肉を緩めながら夫人は私に語りかけてきた。
「遠山さんだって、こんなの困るわよねえ? ご免なさいね。直哉さんが我が儘を言って」
苦笑いをした夫人が、私に向かって頭を下げる。
息子のしでかしたイタズラを、代わりに謝罪する母親のような態度で。
「迷惑だって、正直に言っていいのよ? 大丈夫。私も社長も専務も、皆があなたの立場を分かっているから心配しないで」
いつもとは勝手の違う部長から、今度は私へと攻撃の矛先を変えてきたんだろう。
私の立場、か。
社長夫人も、社長も、専務も、他の取締役も誰も、部長の味方はいない。
だから自分達の言うことを聞いた方が、お前の身のためだ。自分の立場をわきまえろ。
そういう意味の脅しだこれは。……なるほどね。
私は目を瞑りながら大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
そして一歩前へ進み、部長の隣に立つ。
「私は、部長と一緒に仕事ができる幸運に心から感謝しています」
隣の部長が、弾かれるように私を見た。