御曹司さまの言いなりなんてっ!

「私は以前勤めていた会社で、トップに裏切られる形で職を失いました。上に立つ者の采配ひとつで、下の者は人生そのものを変えられてしまうんです」

「…………」

「我が身の保身に目が眩んで他人を貶めるような、そんな人間の下で働くのは真っ平ゴメンだと、誰もが思うことだと思います」


 前を向く私の目には、隣の部長の表情は見えない。

 でも食い入るように熱心に私を見つめる彼の視線が、痛いほど伝わってきていた。


「でも信頼のできる上司は少ない。そんな中で私は、一之瀬部長と一緒に仕事をする機会に恵まれました。とてつもない幸運だと思っています」


 会場中が人々の喧騒に包まれる中、ここだけが不思議に静まり返っている。

 ここに集まっている人達は全員、私が言うところの『上に立つ者』たちだ。

 彼らにとってこの発言はあまり楽しい発言ではないだろうし、社長夫人や専務に至っては、不愉快のひと言だろう。

 だって私が指摘しているのは、まさに自分達のことだとさすがに察しているだろうから。

 でも私は言葉を止めなかった。


 社長が少し離れた場所から、こちらの様子をしきりに気にしている。

 招待客と談笑しながらチラチラと視線を寄せつつも、こちらに来てくれる気配はなかった。


 私は、部長ひとりを矢面に立たせたまま知らないふりはしたくない。

 自分に攻撃が降りかからないのを祈りながら、生贄を差し出して背中を向けるようなことはしたくない。
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