強引上司の恋の手ほどき
旅館の日本園庭はこんな状況でなければ、じっくり見て回りたいほど立派だった。しかし私はそこを緊張の面持ちで歩いている。

彼の前を歩くなんて初めてのことだ。……これが最初で最後になるのだろうけど。

「もう、そろそろこの辺でいいんじゃないか?」

足を止めた場所は、石灯籠の明かりでお互いの顔がちゃんと確認できた。

中村くんもなにかを察しているのか、ピリピリとした空気を出している。

「こんなところまで来て、別れ話するつもり? そこまでして俺と別れたいの?」

自分が話そうとしていた話を向こうからふられて驚いた。

「……どうして」

「まぁ、カフェに呼び出されたときににはそうかなって思ってた。俺、千波と違って鋭いし」

まさか、気づかれていたとは思わなかった。だって一ミリもそんな素振り見せてなかったから。

「だったら、どうして私の話しを聞いてくれなかったの? それに今日だって荷物を持ってくれたり……」

「どうしてって……そりゃ、みんなの前で恥かきたくないでしょ? フットサルのときにあんなふうに紹介しておいて、もう別れました〜じゃカッコつかないよね?」

「……そんなことで」

私はあの日からずっと、中村くんのことが胸につかえたままだったのに。

「そんなこと? 俺が恥かかされても千波はなんとも思わないの?」

「でも、それは仕方のないことで……」

「は? やっぱり分かってない。あ〜もう。俺が付き合って“あげてた”のに、千波から振るなんてとありえないでしょ?」

あんまりな言われ方に言葉を失う。
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